T.植物はどうやって島にたどり着いたの?(海洋島の植物) <2004.7.24作成>     

  四千数百万年前にタイムスリップしてみよう。
 
 今、島のジャングルには地衣類やコケ、小さなシダから樹高8mを超える木性シダ、南国情緒を感じさせるヤシ、ランや美しい小花、うっそうと茂る樹木が数多く自生しています。
小笠原諸島は本州から1000キロ離れている海に浮かぶ小さな海洋島の島々です。
海洋島とよばれる島は、今までに一度も大陸と陸続きになったことがない島です。古くは陸続きであった大陸島の沖縄(琉球)とは島の成立も生物の種構成も大きな違いがあります。
こんな孤島に育つ個性豊かな小笠原の植物たちは、いったいいつどこからどのようにして移住してきたのでしょう。
謎を紐解くためにまずはずっとずー、、、と昔へタイムスリップして小笠原の誕生を思い浮かべてみましょう。

 小笠原諸島は今から約4800〜4200万年前に、現在より約2000メートル南方の赤道付近の海の中の活発な海底火山の活動から始まったのではないかといわれています。やがて海上に現われた火山は大量の溶岩など噴出物を流しながら陸地の原型を作っていきました。島のはじまりは溶岩だけの不毛の地でした。

では生命はどこから、どのようにしてこの孤島にたどりついたのでしょうか、、、。謎を解く鍵は、三つあります。

  自然の力を感じる三つの鍵。

モモタマナ


 一つ目の鍵は海、、、小笠原の話は海抜きには語れません。
海で泳いでいるとモモタマナの実がプカプカ浮かんでいたり、浜辺を歩くとタマナ、ハスノハギリをはじめ植物の実が貝殻とともに漂着しているのを見ることができます。海流散布のものです。

海流散布のものは広域分布種(広く分布している種)で、常時流れ着く種といえます。

ムニンヤツシロラン

 二つ目の鍵は風、、、ランや地衣類、コケ、シダなどは細かい種子(胞子)で空中に舞います。他にもキク科の種子で冠毛をつけるタイプのものの一部が飛んできて小笠原に定着しました。これらは風散布といいます。
風散布のものは海流散布のように常時くるとはいきません。運ばれてくる種は広域分布種のほかにここで違う形に変化(進化)していった小笠原の固有種も多くあります。
風に運んでもらうタイプのものは、うまく長距離を飛んだかと思えば島の中では案外飛ばなかったり、、、風も種も気まぐれですね。
風、、、といえばここ小笠原の台風の威力はものすごい力です。こんな風に言うのかどうかわかりませんが、我が家では台風の暴風の音を聞きながら「台風散布だね」なんて言ったりします。

オオミトベラ

 三つ目の鍵は風にのって現われる鳥、、、主に鳥に実を食べてもらって糞として排出して出てくるようなタイプの植物が多く、果実の色は赤、オレンジ、黄色、青紫色の鳥類の目に認識されやすい色をしています。そこで浮かんでくる一つの疑問があります。鳥が他の島から移動してくる時間より鳥が実を消化して糞をだす時間の方が短いのではないだろうか、、、?ということです。鳥の研究では、鳥が食べたものを内臓に入れておく時間は3、4時間といわれ、疑問は残ります。
しかし、鳥が好んで食べる植物が海洋島に多いこともまた事実です。小笠原唯一の針葉樹シマムロは、果肉のある植物だったため鳥に食べられて運ばれてきたと考えられる植物です。果肉のないほかの針葉樹は海洋島に到着するすべはありませんが、果肉のあるシマムロが小笠原にあることは鳥被食の裏づけになりそうな話です。他に鳥縁のものとしては、果実や種子にカギやカギ状の毛などがあって鳥の羽毛に付いたり、沼に生えるイネ科、カヤツリグサ科などの微小な種子は泥に混じって水鳥の水かきに付いたり、種子に粘着物質があって食べたときに嘴に付いたりして運ばれるタイプなどが考えられています。
普段は地面から動けない植物ですが、少しでも新しい土地、空いている土地に子孫を移動して繁栄するための仕組みを持っています。

  
人為的に持ち込まれた植物(帰化植物)

 1830年頃からの人の入植以来、栽培植物として意図的に持ち込んだもの(移入種)や、人の衣服や農具についたり土や種などにまじって無意識のうちに持ち込まれた植物(随伴植物)があり、これらをまとめて帰化植物と言います。または明治以降から第二次世界大戦後入ってきた比較的新しいものを外来植物ともよんだりするようです。
大陸や日本では、有史以前の人の移動に伴って入ってきた植物を別に史前帰化植物と呼びますが、有史以前の人の移住がなかった小笠原では、皆無とは言わないまでも可能性はかなり低かったと思われます。逆に、1830年以降現在までのたった百数十年の間で帰化植物は草本だけでも200種を超え、人の移動で仕方ないものもあるとはいえ今現在も島に入り続けています。

  
神秘の力を尊ぶ

 自然の力でたどり着く方法は、どれにしてもそうたやすいことではありません。いくつものドラマがあったことでしょう。しかも、雌雄異株の植物であれば運良く雄株と雌株が一緒にたどり着かなければなりません。
島の固有種は、祖先種が一株ないしは数個体の親の近親交配からスタートしているとも考えられ、どことも交流のない小笠原の固有植物は種として劣勢で、環境の変化、人為的な変化(撹乱)、外来の植物や天敵の影響に非常に弱く、小笠原の自然環境の微妙なバランスの上に成り立っています。

なにげない植物にも、このような気の遠くなるような話、気の遠くなるようなながー、、、い時間をかけて今、私たちとともに生きているのです。神秘的な自然の力を敬いながら、山を歩くとき目の前にあった樹や足元の草はどこから来たのか一度考えてみましょう。
また、住宅地には人為的に入ってきた植物が沢山あります。ハイビスカスやガジュマルの街路樹、足元に広がる帰化植物はどこから来たのでしょう。一緒に考えてみましょう。




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