W.植物と動物のつながり<2005.3.4作成>
はじめに。
人間は社会性を持ち、お互いに助け合いながら生きています。では、植物の世界はどうでしょうか?
植物だって人間のような交信はできないけれど、島という小さな生態系の中でそれぞれの植物の種と種、植物と動物、その他環境などが無数の網目状のように密接に関わりあって生きています。
植物のどれをとってもただ一種だけで孤立しては生きていけないのです。
とくに長い長い島誕生からの歴史の中で小笠原にたどり着き生きてきた在来種は、お互いに特別の関係を持っている可能性があります。
植物には不思議がいっぱいあります。私が知らないことやまだ解明されてないこともあると思いますが、今回は植物がひとり(一株・一種)で生きていけないワケを生物との相互作用から少しだけ探ってみましょう。
植物はみんなの命を支えている。
まずは中学の勉強を思い出して、大きな自然の流れをイメージするために生態系のシステムを考えてみます。
生態系とは、生物の食物連鎖が有名な生物構成要素と大気・水・土壌の環境構成要素の2つに大きく分かれ、この2つの要素は互いに環境作用と環境形成作用という形で関わりあっています。こうした相互作用にはすべてエネルギーが必要で、そのエネルギーの源は太陽エネルギーなのです。
私たちは、普段の生活ではあまりそんな構図について意識はしないですね。しかし、私たちも広く見れば地球規模の生態系の一部(定義から外れてるかな?)、すべての生物と環境に生かされています。
生物相互作用というと、食物連鎖(食う、食われる)の関係が基本です。
その出発点は何より植物!葉、茎、根、花、花密、果実などあらゆる部位が食べ物として昆虫、鳥、他動物によって食べられています。しかし、植物も見す見す食べられているだけではありません。幼虫の頃ひたすら植物を食べているイメージの蛾など昆虫の存在は、実は植物を絶滅させるほど食べつくすわけでもなく植物にとっても花粉を運んでくれる者が現われたことで被子植物の世界に劇的な繁栄と進化をもたらしました。お互いになくてはならない存在なのです。
受粉をするのは誰だろう?
ヒメフトモモに訪花するオガサワラクマバチ | オオハマボウに訪花するセイヨウミツバチ |
ランタナに訪花するヒメアカタテハ | ムニンヒメツバキに訪花するオオシラホシアシブトクチバ |
花が咲くと、そこには昆虫たちや小動物が集まります。小笠原では、どんな生き物が集まるでしょうか、、、。
蜂は固有のハナバチに変わってほとんどが養蜂用に移入されたセイヨウミツバチが集まります。時期によってチャイロネッタイスズバチやハナアブの仲間も訪花します。ハエの仲間も花に集まるメンバーです。植物の種類によってはアゲハをはじめとする蝶、蜜を吸う蛾などが訪花します。夜には蜜を舐めにくるカミキリムシの仲間やゴキブリも見ることがあります。集まってきた昆虫を狙って昼間はグリーンアノール、夜はヤモリが来て、同時に花の蜜や花外蜜線を舐めたりします。また、オガサワラオオコウモリが葉を食べたり花の蜜を吸いにきます。受粉に関係するかはわかりませんが、アリもよくいる昆虫ですし、オガサワラアザミにはオカヤドカリがきて花や葉を食べます。その中の、誰がどのくらい受粉しているかは分りません。今、植物と訪花昆虫の関係については研究がされている最中です。
☆視点☆昆虫層は植物同様、外来生物の影響が大きいという問題があります。父島では、ほとんど在来のハナバチを見ることはなく、固有の蜂は大型のオガサワラクマバチを見かけるくらいで、外来種のセイヨウミツバチやチャイロネッタイスズバチばかりが目に付きます。また、捕食者のグリーンアノール、オオヒキガエルが一番の問題です。人によっては「父島と母島の昆虫層はは、グリーンアノールによって破壊されてしまってもうダメだ。」といいますが、それでもまだ断崖絶壁の端で頑張っている昆虫たちをフィールドで見るにつれ、私たち人間が諦めてしまってはいけないと感じます。
種を蒔くのは誰だろう?
メグロ | キンショクダモの実を見つけたアカガシラカラスバト |
木に実が生ると、今度は実を食べに鳥たちが集まります。
母島では、小笠原固有種のメジロ科・メグロと外来種のメジロがいて、主に地面に落ちた実や小さな虫を食べます。山ではオガサワラヒヨドリ・アカガシラカラスバト、海岸近くではオガサワラカワラヒワが地面に落ちた実を食べています。父島では、オガサワラヒヨドリ、アカガシラカラスバト、外来種のメジロが種子を食べます。こうして植物の実は鳥の貴重な餌となり、植物は鳥に実を食べてもらって遠くに種子を運んでもらいます。
☆視点☆小笠原諸島には、もうすでに絶滅した鳥がいます。分っているだけでオガサワラカラスバト、オガサワラマシコ、オガサワラガビチョウ、ムコジマメグロ(亜種)の4種です。絶滅した理由も分ってなければ、どう他の生物と関わりあっていたのかも今となっては謎です。そして現在、小笠原ではアカガシラカラスバトの個体数が極めて少なく絶滅に瀕しています。ハトは砂嚢を持っていてそこで種子を砕いてしまうといいますが、本当にすべてが粉々になってしまうのでしょうか、、、。硬い種子は、かえって発芽しやすくなるかもしれないと私は思います。また、小笠原での消費者の頂点はオガサワラノスリです。今オガサワラノスリはネズミを主に食べていますが、人間の入植以前はネズミはいなかったと考えられていますから、アカガシラカラスバトやシラサギなどの渡り鳥など鳥を中心に食べていたのかもしれません。
土を作るのは誰だろう?
父島の陸産貝類(定平山にて。左の写真のマイマイは殻のみ。右のマイマイは生きていました。) |
山にはいろんなものを食べる生き物がいます。遺体や糞を食べる生物です。
まず、山を歩いて動物の遺体に当たることは珍しいことです。ヤギは何度かありますが、鳥などは小さいものは皆無です。これは島が暖かく腐敗が進みやすいことと、オカヤドカリやハエがすぐにやってきて短期間に分解してくれるからです。このような遺体や糞を食べる動物は消費者に位置づけられています。山でネコの糞にオカヤドカリが集っている光景は衝撃的でした・・・。
木の遺体(枯れ木)を食べるのはシロアリや、葉の遺体(落葉)など土壌中の有機物を分解する陸産貝類やダンゴムシやダニなどの小笠原にも多くの土壌動物がいるそうです。シロアリの多くやミミズは人間の入植以後に入ってきたといわれています。
細菌やカビ類などの分解者は細かくなった有機物をさらに分解して、再び植物が利用できる無機物に戻してくれています。菌類は植物に関係が深い存在です。ランなどは特定の菌との密接な関係を持ち発芽を助けているといわれています。特定の植物には決まったきのこが生え窒素固定などをしていると言われているものもあります。
こうした数々の島のお掃除屋さんがいてこそ、山はいつも綺麗で生き生きとしているのです。物質は有機物から無機物へ、また有機物へと生態系の中を延々と循環していきます。
☆視点☆土壌生物や菌類の中にも小笠原固有のものがいて、まだ未発見のものも多いといわれています。これからの研究が楽しみです。
ところで、火山の溶岩でできた小笠原諸島の大地は長い年月を経てどうやって現在のような土ができたのか、私は不思議に思っていました。そこに「グリーンセイバー/研成社/岩槻邦男-監修」という本が勉強になったので少し紹介します。
できたばかりの溶岩には貧栄養にも耐えられる地衣類やコケ類などが侵入して最初の有機物を残します。その後、岩の風化や微生物による空気中の窒素固定などとともに徐々により大きな植物が侵入するようになっていきました。土壌がうすくて保水力に欠けるうちは草原、だんだんと土壌が発達してくると森林が成立できるようになるといった具合です。植物の根は岩の隙間に侵入して風化を促進するいっぽう、分解された植物の遺体(有機物)と風化された岩石の細かい粒子が混ぜ合わされて土壌が生成されていき、土壌は少しずつ厚くなっていきました。
土壌は生態系の中では環境構成要素ですが、こうした地球環境は生物から働きかける環境形成作用でつくられてきた面が大きいというお話です。