X.クスノキ科タブノキ属の観察日記(花と新葉のフェノロジーと形態)

 自然の中には”はてな?”と思う疑問や、その”謎を解くカギ”がいっぱいあります。
小笠原のタブノキ属もそのひとつ。

小笠原のタブノキ属にはムニンイヌグスとコブガシとテリハコブガシの3種が分類されています。図鑑にのっとってほとんどの個体は区別ができますが、稀にある中間的な個体は区別がつきにくい植物です。
この他にも、ムニンモチとシマモチ、キンショクダモとムニンシロダモ、タチテンノウメとシラゲテンノウメなどはどれも中間的な個体があるようにも思えます。

タブノキ属の中間的な個体は、コペペ道と巽道路に新葉に早落性の毛がある個体が数株あって、このコペペ道の株では花の開花と結実があります。その木を春に夫婦で眺めては、「これな〜んだ。」と毎年起こる格好の議論の的になるのです。
「何だろう?」から始まる観察!

(ご注意:このページは、あくまでも素人さんの私の観察と知見ですのであしからず・・・。)

[1]ムニンイヌグス
ムニンイヌグスAの観察地:コペペ道、巽道路〜旭平の夜明道路沿い(南部にも分布)
ムニンイヌグスBの観察地:東平山道〜初寝浦遊歩道(初寝〜東平に分布)

1)ムニンイヌグスA
開花期:11月〜2月
(晩秋の11月頃から個体によってパラパラ咲きはじめ、1月から本格的に開花2月末まで咲く。)
葉と花序の茎:新葉は赤褐色で、新葉(表・裏)、成葉、花序に毛はな葉の質は薄い。
枝は上部で多く分岐する。これは1年のうちに新葉の展開が何度かある事が理由かもしれない。
花序の茎はコブガシに比べると細長く、斜上する。節は赤く色付く。花の咲いた後に新葉の展開がある。

生育地:
やや土壌の深い土地に生育する。樹高3〜5m



2)ムニンイヌグスB
開花期:3月〜4月
葉と花序の茎:新葉は赤褐色から黄緑色、新葉(表・裏)、成葉、花序に毛はない。
ムニンイヌグスの中では葉の質はやや厚い。新葉の展開は春に限られる。枝の分岐は少ない。
花序の茎はコブガシに比べると細長く、斜上する。節は赤く色付く。花の咲いた後に新葉の展開がある。
生育地:東平〜初寝浦遊歩道の乾性低木林の明るい林内や痩せた土地に生育する。樹高1.5〜3m


【問題点:今回は開花期が違う事と葉の性質によって分けてみましたが、種として分けるほどの違いかは研究者にお任せする他ありません。AとBの生育地はどこが境になっているかという点はまだ観察が必要で、AとBの開花期は連続する可能性も残る。】

[2]コブガシ
観察地:巽道路、コペペ道、夜明道路沿い(父島に広く分布)

開花期:2月〜3月(開花しない年がある)
葉と花序の茎:頂芽からでてきた茎、新葉、花序、がくには褐色〜灰褐色の毛が密にあり、成長するにしたがって毛の量は少なくなるが成葉の葉裏には主脈上を中心に残るかほとんど無毛になる。
葉は肉厚で、幅は広いものが普通、稀に幅が狭くて長細い葉がある。
新葉の展開は個体によって数回ある。花の咲いた後に新葉の展開がある。
花序の茎はムニンイヌグスより太く、上向きに立ち上がる。節は色付かない。

生育地:やや土壌の深い土地に生育する。樹高は、3〜5m

[3]中間個体
観察地:コペペ道

このタイプは少なく、現在3個体見ているうちの花は1個体でしか確認できていない。

開花期:2月
葉と花序の茎:成葉は大きく肉厚で幅は狭い。無毛。
新葉は赤褐色で、新葉(表・裏)には細かな白〜灰褐色の毛がある。毛の合間から葉の表面が見える事でコブガシと異なる。毛は成長するに従いなくなる。
花序の茎には数本のまばらな毛があり、花序は節がやや赤いものの、コブガシのように上向きに立ち上がる。
花の咲いた後に新葉の展開がある。樹高は3m。

【問題点:個体数は、真剣に探せばもっと出てくる可能性が大きい。
タブガシ属3種の中では、最もテリハコブガシの特長に近い感じがするが、典型的なものからは外れる。
現在のコペペ道付近にテリハコブガシがないことも疑問のひとつ。
あるいは、コペペ道と巽道路にはコブガシとムニンイヌグスが混生しているので雑種なのではないかとも思う。
はたまた外来種か?などいろいろな可能性を感じさせる。これは研究者にお任せするしかない。】

[4]テリハコブガシ
観察地:長谷〜旭平の夜明道路(旭山〜中央山、大滝、躑躅山に分布)

開花期:3月下旬〜4月中旬
葉と花序の茎:新葉の表は無毛、裏は無毛かもしくは灰褐色の毛がルーペでみてわずかにある程度。毛はすぐに落ち、成葉は無毛になる。幅は狭かったり広かったり様々で、辺は波打つことが多い。
タブガシ属の中で最も頂芽のふくらみが大きく、新葉は黄褐色を帯びている。
3種の中では一番大きな新葉の展開と同時に花が咲くので、山の中では小さな花より新葉の方がより目立つ。
頂芽が膨らんでくると前年の葉は落葉させる事が多い。新葉の展開は春に限られる。
春の山の樹冠を見ると、ムニンヒメツバキとテリハコブガシの燃えるような黄褐色の新葉が目をひきます。
花はムニンイヌグスよりやや大きく開く。花序の茎はコブガシより細く、斜上するか下向きに垂れる。
生育地:水分条件がよく土壌の深い肥沃な土地に好んで生育する。樹高は4〜6m。

「植物の不思議」表紙にかえる。