コ ラ ム
「私と絶滅危惧種」
〜過去、現在、そして未来を考える〜
・はじめに
絶滅危惧種の問題は、非常に難しい問題です。
どう守っていくべきか科学的にも明確な答えが出ているわけではありません。
このページは、あくまで個人的に感じたことを綴ったもので、
私の考えを強要するつもりはないことや
中傷するものではないことを最初にお伝えしておきます。
絶滅危惧種の問題は、未来の人間活動への保障でもあり
絶滅危惧種の保護は、多くの資金と
多くの善意のある人たちの「祈り」に近い尊い労力の上に成り立っています。
種としての問題だけではなく、地球上で生きるみんなの問題として考えてもらえたら嬉しいです。
私が絶滅危惧種を守りたいと思ったのは、小笠原の植物の勉強をしてすぐのことでした。 小笠原では、他の地域と同様に保護増殖が盛んです。私自身も「少なくなった種を増やしてあげたい。」と強く願っていました。 私が保護増殖に関わっているとき、心の片隅に残った友人の言葉があります。 「どうしてそこまで植えなくちゃいけないの?」「自然に任せられないの?」 その時には、「ここまで少なくなったら、増やさないと絶滅してしまうから。」と答えていましたが、これが当然の行為だと思っていた自分自身に、「植えたものは自然といえるかどうか」ということが、小さなひっかかりとなって残りながら数年が経ちました。 その後、私は運よくRDBの為の絶滅危惧種調査員になることになりました。 森林に入ってみると、コバノトベラ、ムニンノボタン、ウラジロコムラサキ、コヘラナレン、ナガバキブシ、ウチダシクロキ、オオミトベラ、シマムラサキなど多くの絶滅危惧種がノヤギの食害によって悲惨な状況に追い込まれていました。 そこでもうひとつ驚いたのは、植栽地は大切に柵で保護されているのに、自生地は食害でボロボロになって枯れている現実でした。「野生の絶滅危惧種たちは、これでも本当に大切にされているといえるのだろうか・・・。」悲しみにも似た疑問が生まれました。 東平に植えてある多くのムニンノボタンや躑躅山に植えてある多くのムニンツツジは、ひとつの株から苗をつくられている言わばクローンです。現状では、見た目の個体数は増えたとしても、自然更新は非常に難しい様子です。保護増殖の難しさを感じさせます。 そこでまた疑問に感じたことがありました。それは、ムニンノボタンの自生地にも植栽していることでした。 ムニンノボタンの自生地では、自然に多くの実生や幼樹がでてきています。「せっかく自然更新があるのに、これ以上に人間が植える必要があるのかな・・・。」野生株と植栽株は、ここでもノヤギに食べられて枯れていました。 幸いこれらの問題は、志の大きい研究者の方々が積極的に働きかけてくれたお陰で、現在では野生株も柵で大切に保護されるようになりました。関係機関の方々にも、この場を借りて深く御礼申し上げます。私の絶滅危惧種調査は、こうして私に大きな喜びと難しさと疑問や問題を投げかけて終わりました。 現在、小笠原では、多くの絶滅危惧種について保護増殖と自生地や公園への植栽が進められています。ムニンツツジ、ムニンノボタン、アサヒエビネ、ホシツルラン、ウラジロコムラサキ、コバノトベラ、オオミトベラ、オオハマギキョウ、オガサワラグワ、セキモンノキ、シマカコソウなど多種にわたります。 日本の絶滅危惧種の中には、街路樹になっているシマサルスベリなどもあります。小笠原では外来種ですが、絶滅危惧種とは思えないほど自然更新で増えています。 絶滅危惧種は、その希少価値や美しさから園芸植物となることもあるのです。 少し寂しい気もしますが、それも多くの人に関心を持ってもらういい機会になっているかもしれません。 絶滅危惧種の調査をする中で、絶滅危惧種の保護は、個体数の把握と自然更新の確認、さらに減少原因を早急に追究し、原因を取り除く環境を人が整えてあげることの方が大切ではないかと感じてきました。 そして、何より一番は植栽株より自然更新した自生株(野生株)の方が大切だということです。 自生株は、強い将来性と長い年月培ってきた尊い遺伝子があり、種としてのバリエーションを遺すことでもあります。植栽株とは根本的に異なるのです。 そもそも人間は、自然界には含まれていない存在です。自然林は(本州の雑木林やスギ林を除いて)人間の介入なく生命を営んでいるのです。 人間はあまり自然に対して過干渉になりすぎず、自然更新できる環境を整えてあげることの方がより重要ではないでしょうか。その他にもし人間が関わるとしたら、自生地近くに種を蒔くことや、出てきた実生を確実に生存するように管理するくらいのことではないかと思うのです。それで数年経っても自然更新がないときには、最終的に植栽をするくらいの計画にきめ細かさがあってもいいのでは・・・。 植栽株を種の保存として確保しておくことや技術を持っておくことはとても重要なことですが、実際に自然界へ植栽をするかどうかは最後の最後に隠し持っておく必殺技ではないかと思うのです。 少し話が難しくなりすぎでしょうか、、、。 では、絶滅危惧種を風に吹かれて火が消えそうなロウソクに例えて考えてみましょう。 皆さんはそれをどうしますか。 手で囲って風を防ぎますか、、、。 それとも、そのロウソクは消えようとも、100本のロウソクをたてますか、、、。 火を絶やさない為には、ロウソクの状況次第でいろいろな考え方や方法があります。 他の方法もあるかもしれませんね。 小笠原で生きる絶滅危惧種の未来を一緒に考えてみてください。 私自身も今もこうして、自然とは遠く離れた自宅のパソコンの前で、はかなくも美しい絶滅危惧種の未来を想い続けています。 「自然とは何か、、、。」「未来を託せるものは何か、、、。」小さな疑問を再び胸にしまい、消えそうなともし火にそっと手を当てるように、これからも植物たちを愛しく思いながら接していきたい。 |
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