NO.32 ナンバンギセル
Aeginetia indica L. var. gracilis Nakai

ハマウツボ科・ナンバンギセル属


 12月、小笠原固有のイネ科オガサワラススキの中に変わった花が咲きました。ナンバンギセル(南蛮煙管:南蛮人の煙管という意)という植物です。

 ナンバンギセルは、自らは葉緑素を持たずイネ科の植物に寄生して養分を貰って生活する一年草の植物です。
高さは、約10〜20cmくらいあります。

またオガサワラススキだけでなく、ときにサトウキビにも寄生するそうです。本土ではイネ科だけでなくミョウガにも寄生すると植物仲間のNさんに教えてもらいました。ネットで調べると、たしかにミョウガやヤマノイモの例が載っていました。

 小笠原では、父島より母島のほうが比較的見やすいようです。父島にもオガサワラススキは沢山ありますが土壌の薄く固い場所が多いせいか、なかなか出会える場所がありません。


(2003年12月中旬:父島・野羊山)
 葉を持たず、いきなり花茎を伸ばして花を咲かせる変わった植物ですが、オガサワラススキに埋もれながらひっそりと咲く花は派手さはありませんがとてもかわいらしい花です。

ナンバンギセルは古く万葉集にもでてきます。

「道の辺の尾花がもとの思い草 今さらになど ものか思はむ」

「思い草」は、ナンバンギセルのことと言われています。意味は、「道ばたに生えるススキだけを頼って生きているナンバンギセルのように、私はあなた一人を頼りに生きているのですから、今さら、何一つ考えることはありません」。花を下に向けるその姿が、首を傾けてもの思いにふけっているように歌人が感じたのでしょうか。

 花の中には大きな柱頭がありました。そのまま実になりそうな大きさです。
 最初に見に行った日が、もう花の盛りを過ぎた頃だったためか、10日後に再び足を運ぶともうほとんど実になっていました。

花びらをつけたまましぼんで枯れた様な果実には、中に細かい種子が沢山入っていました。

「小笠原図譜」には、花期は7−8月とあります。また、春の頃出るとも書いてあります。
観察の範囲では、野羊山では夏の頃でる花は少なくなり、主に秋から春にかけてが良く出るものの通年花が見られます。
以前には、ムニンギセルといわれ島の固有種と扱われていました。
(2003年12月下旬)

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