NO.81 ノヤシ
(島名:セーボレーヤシ)
      Clinostigma savoryanum (Rehder et E.H.Wilson) H.E.Moore et Fosberg

固有種:ヤシ科・ノヤシ属)

 ノヤシには、真夏の太陽と青い空が似合います。
明るい緑色の葉とすっと伸びた粉白緑色の葉鞘は、他の観葉植物のヤシよりも繊細で美しい存在感があります。
父島では清瀬交差点の民家近くに1株植えられています。
(2008年6月:父島・大神山公園)

 ノヤシは、父島列島と母島列島に分布している小笠原固有種です。
戦前は聟島にもあったようですが、現在の聟島では絶滅しています。
ノヤシは、海辺を好むココヤシとは違い、山地の林内や谷間の土壌の深い場所に好んで生える山の植物です。

高さ5〜10m程。
幹は、若いときは淡緑色で根元近くが膨らみます。成長とともに灰色を帯びていきます。
葉跡の輪紋が幾重にも並んでいます。
葉は頂部に輪生してつき、長さ1〜2m程。羽状複葉で、主脈まで深く切れ込みます。
皮質。鈍い光沢があります。

花期は、7〜9月ごろ。
花序は、葉鞘の部分に先の凹んだボート状の苞に包まれています。1株に2〜4本程です。
大型の円錐花序が出ると苞を落とします。
花は淡黄色。雌雄同種。雌花が中央、雄花が雌花を挟んで並んでいます。
花には昆虫が多く集まります。
それを狙って、アノールトカゲも花序の上で待ち構えています。

果期は、5〜6月ごろに赤色に熟します。
種子はネズミの好物で、冬から春にかけてに食べられてしまうことが多くあります。
ところが、山では赤色に熟す木を私は見たことがありません。
それでもノヤシの実生は出ているので、一見熟していなそうな淡緑色〜黄ばんだ黒色でも熟しているに違いないと思っています。

(2008年7月:父島・夜明道路) (2008年6月:父島・大神山公園)
 実生の葉は、カニの爪のように大きく裂けています。
ノヤシは、戦時中に新芽を食用にされ個体数を減らしましたが、現在では多くの実生を見ることができるまでになりました。

ノヤシ属は、小笠原の他に南太平洋諸島とオーストラリア北部に7種が分布しています。
ノヤシは、東南アジアや日本の本州にルーツをもつことの多い小笠原の植物の中で、シロテツやムニンビャクダンやムニンフトモモと同様にハワイ・ポリネシア系にルーツをもつ南国の植物の仲間です。
小笠原においてハワイ・ポリネシア系にルーツをもつ植物は、日本本州にルーツをもつ暖帯系の植物に比べると種以上の区別まで分化が進んでいるものがあり、小笠原到着時期の歴史の古さを伺えます。
このようにノヤシ属は、日本で唯一小笠原でしか見ることができない貴重な植物です。
実生



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