NO.82 オガサワラビロウ
(島名:シュロ)
Livistona chinensis (Jacq.) R.Br. ex Mart. var. boninensis
Becc.
(固有種:ヤシ科・ビロウ属)
シュロっ葉が使われている休憩所(2009年:父島・大村) | (2004年5月:東島) |
オガサワラビロウは、小笠原諸島に広く分布している常緑樹です。 海岸近くのふもとから山頂付近まで生育しています。 島では、戦前からシュロの名前で親しまれ、葉を屋根に、葉柄を突きん棒(※1)の柄にするなど、島民の生活と文化を支えてきた植物です。 現在でも、休憩所の屋根や南洋踊り(※2)の腰巻に葉が使われています。 島名は、シュロという植物に外見が似ていることに由来していますが、本物のシュロはシュロ属でビロウ属とは異なります。 高さは、5〜10m程。それ以上の高木になることもあります。 樹冠に出た姿は遠くからもよく見えて、南国の雰囲気です。 大村の近くでは、大神山遊歩道や三日月線の道路を歩くと自生のオガサワラビロウを見ることができます。 遠目で見ると、ちょうど三日月山の中腹にモスグリーン色をしたオガサワラビロウの群落が目にとまります。 幹は、葉柄が落ちた痕の環状もようが特徴です。 この模様は、やがて古くなると消えてしまい、縦方向の割れ目が出てきます。 幹の根元は、やや膨らみます。 葉は掌状深裂で、100cm前後。先は2つに裂け垂れます 葉柄は、150cm程。輪切りにすると三角形をしています。 葉柄の基部には基部方向に曲がった2列の棘があって、うっかり触ると手を切ってしまうほど鋭い棘です。中には棘のないものもあります。 母島やその属島にある棘のないものを「メイジマビロウ」と区別して呼ぶこともあります。 |
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(2004年11月:父島) | |
頂芽は先がとがった刀のような形で、上にまっすぐ出てきます。 この頂芽は、よくみると掌状葉が扇のように綺麗に折りたたんであります。巧妙にできた造りだと感心します。 春には葉柄の間から花序を伸ばし、初夏の長雨が降る5月ごろに花を咲かせます。 淡黄色の花は小さく、がく片をわずかに開く程度です。 果期は1月ごろ。雫のような楕円形です。 深緑色をした綺麗な色の果実を実らせます。 オガサワラビロウの果実はとても硬く、種子好きなネズミでも外皮を食べても、中身まで食べることは少ないです。 種子は薄茶色をしています。 |
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(2004年5月:父島・夜明道路) |
(2009年1月:父島・旭山) | (2009年1月:父島・旭山) |
オガサワラビロウは、人の生活に潤いを与えているだけではありません。 葉柄の周辺を囲む繊維にはタマシダやマツバランなど他の植物が着生しますし、材にはゾウムシの仲間や甲虫類といった昆虫の姿を見ることができます。花にはオガサワラオオコウモリも来ます。 また周囲の環境には、固有の陸産貝類、シマウツボ、ムニンヤツシロランなどの貴重な種を見ることがあります。 オガサワラビロウは、多くの生きものが集いよりどころとする大切な植物なのです。 オガサワラビロウの実生は通年あります。 まず単葉の葉を1〜2枚出してから、次に3〜5裂に深裂した掌状葉を出していきます。 稚樹の最初のうちは根元部分を成長させます。幹ができ始めると、今度は上に向かっても成長していくようです。 それにしても、20mもの高木になるには一体何年位の年月がかかるのでしょうか、、、。 オガサワラビロウは、種としての分化の程度が低い植物です。 オガサワラビロウはビロウの変種ですが、広義で扱う場合には九州の沖ノ島から琉球に自生するビロウに含まれます。 確かにオガサワラビロウはビロウとそう変わりがないくらいよく似ていると私も思います。 それにしても、奥村のグラウンドに植えられているのはビロウではないかと常々考えています。 全体的な印象、花期の時期などに違いを感じるのです。 みなさんはどう思われているでしょうか、、、。 この仲間の種の違いについては、あの硬い実を割って胚乳の位置を調べるそうです。とても大変そうです。 |
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実生(2008年11月:父島) | ゾウムシの仲間(体長3mm程) |
※1:突きん棒・・・魚を突く銛(もり)。 小笠原ではタマナの大木をくり抜いてつくった、アウトリガーカヌーという独特の小船があります。 カヌーに乗って突きん棒漁をしていたそうです。 ※2:南洋踊り・・・南洋踊りは、大正末期〜昭和初期、貿易で往来していた人々によって伝承され、 南洋諸島から小笠原に伝わってきた踊りです。 独特な歌詞は日本語と南洋諸島の言葉が混ざり合い、 タマナで作った打楽器(カカ)の音にあわせて踊ります。 南洋踊りは、東京都指定無形民俗文化財に指定されています。 おが丸の出港日には、保存会の方々が踊ってくれます。 小笠原小学校では、南洋踊りなど島の文化を学ぶ時間があります。 運動会で子供も大人も一緒になって南洋踊りを踊ります。 |