NO.44 ナガバキブシ
Stachyurus macrocarpus Koidz.

固有種:キブシ科・キブシ属)

(2009年2月:父島)
ナガバキブシは、父島、兄島、弟島に分布する2メートル程になる常緑の小低木です。
地際から放射状に長い枝を伸ばします。
キブシ属は変異が多様で、ナガバキブシもナンバンキブシ(別名:ハチジョウキブシ)の変種とする見解もあります。その場合、学名は(Stachyurus praecox Siebold et Zucc. var. macrocarpus (Koidz.) Tuyama ex H.Ohba)です。
今回の図鑑では(Stachyurus macrocarpus Koidz.)を使うことにしました。


キブシ科はキブシ属のみで構成され、本州以南の日本、台湾、中国などに10種あります。
母島には、ナガバキブシの変種のハザクラキブシという固有種があります。
小笠原のナガバキブシは個体数も少なく、絶滅危惧種T類(CR)に指定されています。

生育環境は、どの島でも乾性低木林の標高200メートルから250メートルの東から北側の斜面に生育し、日差しの厳しい南から西側の斜面にはありません。
これは、キブシ属の分布の中心が温帯にある為で、亜熱帯の小笠原では暑いので標高の高い涼しいところで細々と生き残っている状態であると私は考えています。
本州では森林から外れた陽光地に生えるキブシに対して、ナガバキブシは林内の木漏れ日当たる場所と全く違う生育地であることからも、現在の小笠原がキブシにとって暑くなってきていることが分かります。
私の仮説ですが、氷河期の時に南に分布を広げた後、その氷河期の終わりに生き残った結果ではないかと考えています。
 葉は、本州のキブシが幅の広い丸みのある葉に対して、ナガバキブシは幅が狭く長いように見えます。
このことから、長葉木五倍子という和名がつけられています。キブシの名は、果実を五倍子(ごばいし、ふし)という黒色の染料の代用に使われたことに由来しています。
林内の葉は薄く、サクラの葉に似ています。


 花は、枝から下向きに花茎を出し、芳香のある小花が咲きます。
基部から先端に向かって徐所に開いていきます。
ナガバキブシは雌性両全性異株です。
雌花のみの株と両性花のみの株があります。
どちらも結実しますが、雌花の株の方が結実数が多く、両性花の株はほとんど実りません。
花は両性花の株の方がたくさん花をつけ、雌花の株はかなり少ない傾向が見られます。

花期は、1月中旬から1ヶ月ほどです。
この時期ハチは冬眠中なので蛾のシャクガやメイガ、それとガガンボなどによって送粉されています。
この昆虫たちは夕暮れから夜間に活動します。

花は何かに食べられていることがありますが、これはシャクガの幼虫の仕業です。
成虫が送粉している可能性があるので微妙な共生関係にあるかもしれません。
(2009年2月:父島)
(2004年4月:父島) (2002年10月:父島)
 果実は、3月ころから膨らみはじめ、直径1.5センチほどになります。中には50個ほどの小さな種ができます。
ナガバキブシの果実は、本州のキブシより大きくなりますが結実数は少ないです。
果実は11月ころ小豆色になりますが、熟した感じにはならず、また鳥が来る気配もなく地面に落下します。種からの発芽はほとんど見られませんが、最近わずかに実生が確認できています。
発芽しにくい原因はいくつかありそうですが、大きな原因としては果実がうまく鳥に食べられないことと関係しているのではないかと私は考えています。

 ナガバキブシは、ノヤギによって集中的に食べられてしまうことで個体数を減らしています。
ノヤギのいる現在の森林環境では、保護柵を設置して対応するしか生き残る術がありません。

【 参考文献 】

・Abe T (2007) Sex expression and reproductive biology of Stachyurus praecox (Stachyuraceae).
Bull FFPRI 6:151-156

・Abe T, Wada K, Nakagoshi N (2008) Extinction threats of a narrow endemic shrub,
Stachyurus macrocarpus (Stachyuraceae) in the Ogasawara Islands.Pl Ecol 198:169-183

・安部哲人・星善男、小笠原諸島母島産絶滅危惧種ハザクラキブシの新個体群発見と
それより明らかになった種特性及び生育環境、保全生態学研究13:219-223(2008)


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