母島旅行記(2008年:その2)
夏休み自由研究のすすめ | |
ムニンモチ? Ilex mertensii Maxim. var. beecheyi (Loes.) T.Yamaz. |
|
今回の旅行の目的のひとつは、典型的なムニンモチを見ることでした。 ムニンモチは、シマモチの変種です。絶滅危惧種にもなっています。 しかし、同定が難しい! モチノキの仲間を同定するとき、今のところ自分自身も葉の形態で見分けています。 葉の形態だけでみると、父島にもムニンモチによく似たものがあります。 父島島内でも同定が混乱している難しい植物です。 小笠原の植物は、環境に合わせて1種が多様な葉の形態をすることがよくあります。 葉の大きさや鋸歯の入り方だけでは、少し説得力に欠けてしまうように感じます。 小笠原図譜では、花柄の長いことや果実が卵形になることを違いにあげています。 みなさんはどこで見分けているでしょうか。 わずかな違いだけでは、変種としての違いも怪しいようにさえ感じてきます。 母島へ行って、Hさんとお話したところ、やはり葉の薄さや鋸歯の入り方や樹幹の太さなどで見分けるとのことでした。乳房山のものもそうではないかということで、見に行っていろんなところを定規で測ったりしてみましたが、父島のものとあまり変わりませんでした。探し方が足りなかったかもしれません。 植物の見分けはとても難しいように思われますが、特別な解析をする訳ではないので素人にもある程度できることです。もしよかったら、身近な植物の「違い」について観察してみてください。 そうこうするうちに、子供たちが「気分がわるい」とか「歯ぐきが腫れた」とか不調を訴えてきました。 幸い子供たちの具合はそれほど悪くなかったのですが、予定を切り上げて最後に御幸之浜の貨幣石を見てから、父島へ帰ることにしました。 |
|
貨幣石(ヌムリテス)と貝の化石 | 貨幣石の断面 |
御幸之浜へは、車で旧へリポートの方まで行って、そこから徒歩5〜10分くらいで着きます。 御幸之浜の名前は、1972年の昭和天皇行幸に由来しています。 この周辺地域は、特別保護地区(※1)に指定されています。貨幣石はもちろんのこと落葉一枚持っていくことが禁じられています。うっかり、、、なんてことがないように、写真に撮るだけにしましょう。 貨幣石の観察は、子供の自由研究にうってつけの題材です。 貨幣石の大きさや形、表面や断面よく観察し、撮影してみましょう。我が家では、貨幣石の他に貝や珊瑚の化石を見つけました。一番大きい貨幣石は5.3cmありました。もっと大物があるかも・・・?! 家に帰ってから「貨幣石」や「有孔虫」について調べてみると、また新しい発見があります。 貨幣石は、大型有孔虫の化石です。 単細胞生物の貨幣石(ヌムリテス)が生きていた時代は短く、地層の年代が分かる示準化石になっています。(世界では、石油の油田を探すのに貨幣石が利用されているそうです!) 小笠原の貨幣石と同時代の近縁の貨幣石は、九州の南方の沖大東海嶺から奄美海台の海底から見つかっています。このことから、かつて小笠原がこの近くに位置していたことがあると考えられています。 母島の貨幣石は、小笠原諸島の歴史を考える上で大変重要なものなのです。 ヌムリテスはどんな生きものだったのでしょうか・・・。 御幸之浜でよく観察してみると、大きい円盤形のものと小さなソロバン形のものとがあります。 前者は無性繁殖し、後者は雄と雌があり有性繁殖していたのだそうです。無性世代と有性世代が交互に入れ替わって繁殖する単細胞生物なのです。 貨幣石の断面は樹木の年輪のように見えます。これは、詳しく見るとさらに小さな部屋に分かれています。貨幣石は、カタツムリのようならせん状に渦を巻きながら成長する生物のようです。 表面はぶつぶつとした突起があります。これは、壁孔といってここから糸状の仮足を出して浅い海の海底に付着したり移動していたそうです。 子供は、石や化石が大好きです。 何てことない石に見えても、子供たちには光り輝く宝物のようです。 夏休みに調べてみてはいかがでしょうか・・・。 |
|
※1・・・特別保護地区:国立公園では、特別地域の中で特に優れた景観の維持するため、公園計画に基づき特別地区を指定しています。(自然公園法14条) 落葉の採取、焚き火、植栽までもが規制対象とされ、現状変更行為は原則として認められていません。 [参考文献] ・フィールドガイド 小笠原の自然 東洋のガラパゴス (古今書院) 小笠原自然環境研究会編 ・東京都自然ガイド認定講習 島しょ地域の地質 海野進 [参考ホームページ] ・有孔虫について・・・川崎市青少年科学館 ・特別保護地区・・・EICネット(環境情報案内・交流サイト) |