鳥山

 「鳥山をいつか家族で歩きたいね・・・。」小笠原の山を歩き始めた頃からの私たち夫婦の念願でした。
長男も小学生になり、次男も根っからの野生児で、二人ともずいぶん長い距離を歩けるようになりました。赤ちゃんだったナルもおんぶして山にいけるようになったので、去年の10月、まず東海岸まで行って見て様子を見ることにしました。
 東海岸までのちゃんとした山道はなく枝についた色テープを頼りに下ります。基本的に沢沿いをいろいろなルートが入り組んでいて、ひとたび間違うとときに大きく道をそれてしまうので慣れないうちは注意が必要です。ロープの場所や道幅の狭いところもあり小さい子供は注意しなければなりません。始めて行くときは知っている人と一緒に行くと安心です。

 沢を下りながら、子供たちや家族で普段しない話題を話してみたり、坂を下りるときに掴む木について、それがどんな木でどういう特徴があるかなどを話したり、虫が飛んだとか、地面に蛾の蛹を見つけたり朽木に幼虫がいたとか、木の幹や岩につく地衣類・コケ、変わったきのこがあったなどなどを散策しながら歩きました。下り始めてから1時間半ほどで海岸に着いて、子供たちは海の漂流物で思いっきり遊びました。大人にはちょっと物足りない気分です。

沢登り(下り)

 2月5日、いよいよ鳥山へ決行です。(9時半スタート)
東海岸まで降りてすぐ登りはじめました。道はなく、昔使った軍道のなごりを通っていきます。道はほとんど崩れていて、だいぶ分りにくくなっています。
東海岸から鳥山にかけてヤギの親子の群れが岩場に点々と見えます。この日、海岸では子ヤギが死んでいました。崖から落ちたのでしょうか、、、。
林やガレ地を通りながら、12時頃に山頂に着きました。さすがに子供たちも少し疲れたようです。

山頂からの眺め(鯨崎)

 お昼に子供たちの大好きなカップラーメンやお菓子を食べて、12時40分ごろ下り始めました。
 鳥山の南東〜南側の林は小笠原本来の林の片鱗があります。
ムニンヒメツバキはほとんどなく、かつてはウチダシクロキがあったといわれています。今でもオガサワラグワ、オガサワラボチョウジ、ムニンノキなどの大木が残っていて、ちょうどこの季節は、シマウツボ(小笠原固有種・ハマウツボ科)の蕾が林内の林床に多く見れました。
 草地は、フタシベネズミノオを中心にシマチカラシバや林内・林縁にムニンナキリスゲ(小笠原固有種・カヤツリグサ科)があり、岩場にはマツバシバ(小笠原固有種・イネ科)の小群落があります。ところどころにオオバハマアサガオが茂っていましたが、今回はずいぶんヤギに食べられていました。
フタシベネズミノオはヤギが好んで食べているようで短く刈られて地面が見えているところが多く、土はカラカラにひび割れています。父島の中でもこれほど荒涼とした風景があるとは驚きます。聟島かどこかに来たような雰囲気なのです。

 緑がみえる部分はコハマジンチョウ。
有毒植物のため食べられません。
ヤギに食べられたシマウツボ。
甘みがあってヤギの好物。見つけ次第食べられる。

 人間が移住してから小笠原の自然は大きく痛手を負ってきました。開拓・伐採・外来動植物の移入など、今もその痛手を引きずっています。小笠原の小さく安全な土地でひっそりと暮らしていた固有動植物にとってはひとつの生物が存続を脅かす大きなダメージになってしまいます。ヤギは昔は海洋島でのよき食料であり生活にかかせないものでしたが、時代とともに法律も変わり、大きな設備のない島で食肉にすることが難しくなってしまいました。食べるものがなければヤギもいつかは痩せてしまいます。ヤギも人間の被害者なのです。

 私たちは鳥山をぐるっと周って東海岸から来た道を帰り、巽道路には4時ごろに到着しました。
鳥山から眺める山と海のコントラストは美しく、夏には景色の色も一層深まります。またいつか行ってみたい山です。


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