NO.5 イワヒバ
【別名:イワマツ】
Selaginella tamariscina (P.Beauv.) Spring
(イワヒバ科・イワヒバ属)
(2005年6月:父島) | 表面 |
イワヒバは、北海道〜琉球、小笠原に広く分布している常緑性草本です。 小笠原諸島では、父島、兄島、母島に分布しています。 和名の岩檜葉(いわひば)は、岩に生え、その葉がヒノキの葉に似ていることに由来しています。 ヒバゴケと同じイワヒバ属で、名前や形態も似ています。 イワヒバは、仮幹(かかん)という担根体(※1)と細い根がからまってできた幹のようなものを持っています。 小笠原のものは全体的に小ぶりですが、本州では高さ20cmに達するものもあるそうです。 仮幹から何十枚もの枝を放射状に平たく広げる独特な風貌をしています。 古い葉は、紅葉のように橙色や朱色へと変わり、鮮やかで美しい植物です。 イワヒバの生育地は、夏は灼熱の乾燥する場所でとてもいい環境とはいえません。 なぜイワヒバは、この暑さと乾燥に耐えられるのでしょうか。 その秘密は枝葉の仕組みにあります。 イワヒバは、乾燥すると下の写真のように枝を内側へと丸める仕組みを持っています。 折りたたみ傘のようですね。 葉にも秘密があります。 表面の葉は暗緑色の硬い葉に対し、裏側の葉は表面より大きく白褐色の毛をびっしり付けています。 毛は、日陰を作り乾燥を防ぎます。表面の葉と裏面の葉がリバーシブルのように役割を持っています。 イワヒバは2回羽状複葉にも見えますが、本当はこの小さな鱗片状の部分で単葉の葉なのです。 この小さな葉は表裏の両面とも2対ずつ並び、軸が見えないほど密につけます。(右上の写真) 丸めた枝は、雨が降ると元に戻ります。その姿から、復活草とも呼ばれています。 イワヒバの戦略は、あえて競合する他の植物が生えにくいこの地で、悠々と生きることを選択したのでしょう。 ところで、イワヒバは江戸時代から園芸植物として親しまれてきたそうです。 残念なことに、今でも本州ではイワヒバの自生地での採取が行われています。 小笠原のものがいつまでもこのままであるよう、みんなで大切に見守りたい植物です。 自然のままを楽しむのが一番ですね。 |
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枝を丸めて乾燥から身を守る | |
※1・・・担根体:イワヒバ科、ミズニラ科にみられる特殊な構造で、上部の茎と地下の根の中間に位置する。 性質も茎と根の中間にあたり、学術的な議論がされています。 古植物学では、担根体に相当する性質は陸上植物の始原型にもみられるという。 シダ植物の進化の歴史と神秘を秘めています。 |