母島旅行記

その1・乳房山(2007年1月30日)

ハザクラキブシ
Stachyurus praecox Siebold et Zucc. var. macrocarpus (Koidz.) Tuyama ex H.Ohba
ユズリハワダン
Crepidiastrum ameristophyllum (Nakai) Nakai


 母島に来ると、我が家では毎回のように乳房山に登ります。
乳房山は、何度歩いても魅力の衰えない山です。いつも同じ場所を登れば、前回とは違うものがより見えやすくなったり、少しの変化も感じられます。乳房山へ行く遊歩道は、整備が行き届いています。小学生程度の体力があれば、子供でも歩きやすく比較的安全な道です。


 乳房山の植物は、昨年秋の台風で樹冠の枝や葉が落とされ、林内は明るくなっていました。台風のダメージを受けたワダンノキやハハジマノボタンも息を吹き返してきており、頼もしく感じられました。新しい小さな命である実生も、あちらこちらで芽生えています。外来種のアカギの実生も多くありました。

 山頂からの眺めも格別です。しかし今回石門方面を望むと、広い範囲で緑がなく茶色く見えたので気がかりになりました。帰ってから星さんに伺うと、母島の東側近くを通った台風は、特に石門の平地に大きなダメージがあったそうです。

 開花は、ハザクラキブシ、シマギョクシンカ、ヒゲスゲがあり、ユズリハワダン、ムニンシュスランなどが開花の終わりごろ運良く見られました。ムニンネズミモチは、他の島と同じように狂い咲きが少しありました。外来種のヤンバルツルハッカやカッコウアザミも開花しています。中でもヤンバルツルハッカは、台風で林内が明るくなり数年前に比べ旺盛に茂っているように思いました。結実は、ヒメマサキ、ワダンノキ、ムニンシュスラン、ハハジマノボタン、ヒゲスゲ、エダウチチヂミザサ、ガジュマルがありました。

母島固有種のハザクラキブシは、父島列島固有種のナガバキブシの変種として扱われています。ナガバキブシに比べ葉も花の房も大きく見事です。樹高も2〜3m程と高く、伊豆半島から伊豆七島に生育するハチジョウキブシに似ているそうです。

 母島では、父島のようなオオモンヒメシロノメイガの大発生は見られませんでした。むしろ少ない様子です。父島では個体数の多いムニンネズミモチが母島では少ないという事も、ひとつの要因かもしれません。小さな島が点在する小笠原諸島の自然は、島ごとに微妙に異なっている。そのことを、また自然から教えられました。


その2・中ノ平と北港(2007年1月31日)

ハハジマトベラ
Pittosporum parvifolium Hayata var. beecheyi (Tuyama) H.Ohba
ムニンハマウド
Angelica japonica A.Gray var. boninensis (Tuyama) T.Yamaz.


 万年青浜(おもとはま)入口から南崎に伸びる遊歩道を、のんびり歩きました。母島の北部と南部の端は、樹高も低く明るい林内で父島に近い雰囲気を持っています。

 乳房山ではシロトベラを多く見ましたが、この辺りにくるとハハジマトベラになります。すでにほとんどが実がなっていて、やっと数個の花を見つけました。
ハハジマトベラは、父島列島の固有種コバノトベラの変種です。
本種は、オオミトベラ、シロトベラよりも花茎が短く、葉先は尖らず丸くなります。花茎はもっと短くなりますが、コバノトベラの外観によく似ています。

【花茎の長さの比較】 オオミトベラシロトベラ > ハハジマトベラ > コバノトベラ

 最後に、早咲きしたムニンハマウドの花を見ることができました。
浜風に鼻をツンとするような花の香りが漂っています。浪打際までを海岸植生があり、厳しい環境下で生きる姿は美しいものです。地面には、無数のオガサワラトカゲがチョロチョロと歩いていました。
今回の旅行でも、様々な植物を見ることができました。母島の海岸植物の豊かさと、外来動物であるヤギのいない素晴らしさを一段と感じ、母島を後にしました。



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